こんにちは、ゴローです。
このページでは、畑村洋太郎氏の「失敗学のススメ」の手法を用いて、僕の過労体験を元に、日本の企業が起こし続ける過労死という失敗を分析し、知識化することで「過労死ゼロ」を実現する方法を考察したいと思います。
誰も望まない過労死という痛ましい事件で、毎年多くの人が亡くなっています。
日本では、2000年に判決がでた電通事件(1981年に発生)で、はじめて企業の安全配慮義務が認められました。
それ以降、「過労死」は社会的に認識されるようになっていきます。
しかし、その後も過労死者は減らず、2016年に電通女性社員過労死事件が報道されると、国内だけにとどまらず、海外でも「KAROSHI」として認識されるような問題になりましたが、今でも過労死で亡くなった方のニュースがたくさん報道されています。
このようなニュースを見る度に、胸が締め付けられる苦しさとやるせなさを感じます。
このページで実例として掲載している過労死事件は労災認定(公務災害を含む)され、報道等が行われている事件ですが、ごくごく一部です。
なぜなら、故人の労働環境を示す証拠を遺族が揃えることは難しく、労災申請を行うこと自体が困難である事件も多いでしょう。
たとえ、申請が受理されても、労災認定され、過労死と認められる事件は申請数の35%しかないのが、現状です。
労災認定されなければ、単に病死か自殺として扱われ、企業の責任もあいまいなまま、過労死という失敗を繰り返されているのが、現状ではないでしょうか。
また、労災認定や多額の損害賠償支払い、刑事罰を受ける企業が出て来ても、失敗体験は活かされることなく、同様の事件が繰り返されています。
僕自身も長時間労働で過労死寸前となり、労災認定された経験がありますが、僕の休職後も、会社の労働環境は変わらず、同僚達が過労によって体調不良で休職したり、退職しています。
過労死は決して他人事ではく、働く人すべてに降りかかる可能性のあるものなのに、なぜ、自社の社員を死に至らせるほど危険な過重労働はなくならないのでしょうか。
企業規模や年齢、性別、業種に関係なく、働く人やこれから社会で働こうとする人が、このページを見て、過労死を未然に防ぐことができることを心から願っています。
過労死の現状
令和元年版過労死等防止対策白書によれば、2017年に過労死として請求された労働災害と公務災害は637件です。
そして、2017年に認定された件数は約35%の221件でした。残りの65%は仕事上の災害として認められていないのが現状です。
※2017年に申請された災害が、2017年中に認定されたかどうかはわかりませんので、目安です。
過労死とは
過労死とは、過重労働により病気を発症したことで病死あるいは自殺で亡くなってしまったことを言います。
過労死等防止対策推進法第2条では次のように定義しています。
業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
精神障害の労災認定基準の強い心理的負荷には、長時間労働による過重労働が含まれます。
労働時間以外にも、劣悪な勤務形態や作業環境などが過重な負担をかけていることもあります。
過労死者の推移
電通事件の判決で企業側の安全配慮義務が示されて以降、過労死の申請が増えたことで、労災認定された数も増加しています。
2016年に電通女性過労死事件が報道されてから、働き方改革で様々な施策が始まっていますが、まだ減少傾向とは言えないと思います。
※労働災害と公務災害の脳血管疾患・心臓疾患・精神障害のすべてを合算して掲載
出典:令和元年版過労死等防止対策白書に掲載されたデータより当サイトが作成
業種別の過労死者数
2018年の過労死者数が多く発生した業種を掲載します。
業種 | 過労死者数 | |
1 | 運輸業・郵便業 | 35 |
2 | 公務員(国家公務員と地方公務員の合計) | 20 |
3 | 建設業 | 18 |
4 | 卸売業、小売業 | 18 |
5 | 宿泊業・飲食サービス業 | 11 |
※国家公務員と地方公務員は、公務員として合算して掲載
出典:令和元年版過労死等防止対策白書に掲載されたデータより当サイトが作成
過去の過労死事件の実例
本サイトで紹介した事件を実例として記載します。(他の事件も随時更新する予定です)
ここに掲載した事件からわかることは、過労死には長時間労働が密接に関係していることです。
また、各事件の個別記事を読んでいただくわかるのですが、長時間労働が行われる背景にはパワハラがあります。
この2つが働く人の精神と肉体を追い込んでいると私は考察します。
そして、大企業だから言って、人手に余裕があり、荷重労働がないわけではありません。
年齢的に体力があれば耐えられるものではなく、働く人すべてに迫る危機として認識する必要があると考えます。
株式会社電通
日本最大手の広告代理店の電通は、報道等であきらかになっているだけで3件の過労死事件を引き起こしています。
・1991年に電通社員(当時24歳)が長時間労働によってうつ病を発症し、自宅で自殺してしまった事件。
・2013年に電通社員(当時30歳)が長時間労働が原因で亡くなった事件。
・2015年に電通社員(当時24歳)が長時間労働による過労からうつ病を発症して自殺してしまった事件。
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【過労死事件の考察】電通事件から見た過労死が起きる企業体質
2015年12月に電通の社員・高橋まつりさんが長時間労働による過労から自殺をしてしまった事件は、日本でもっとも有名な過労死事件ではないでしょうか。 多くのメディアで報道があり、海外でも取り上げられまし ...
デンカ株式会社
一部上場企業の化学メーカーのデンカでは、研究員の方が過労死で亡くなっています。
・2016年にデンカの研究員(当時28歳)が長時間労働によってうつ病を発症し、寮で自殺してしまった事件。
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【過労死事件の考察】新型コロナウイルス関連で注目のデンカの事件について
こんにちは、ゴローです。 化学メーカー「デンカ」に務めていた男性社員の方が過労による自殺で亡くなり、労災認定されたとの報道がありました。 報道:長時間労働で自殺 逆転で労災認定 上毛新聞 僕もブラック ...
アートコーポレーション
引越し大手のアートコーポレーションの子会社であるアートバンラインでドライバーの方が過労死で亡くなっています。
・アートバンライン株式会社の長距離運転手(当時53歳)が過重労働が原因で心臓死してしまった事件。
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【過労死事件の考察】アートの子会社で起きたのはどんな事件なのか
こんにちは、ゴローです。 引っ越し大手アートコーポレーションの小会社であるアートバンラインに勤める男性社員の方が過労死で亡くなり、労災認定されたとの報道がありました。 報道:アート子会社のトラック運転 ...
協和商工
長崎県佐世保市の食品卸会社「協和商工株式会社」では、営業やトラックの納品作業を担当していた社員の方が過労死で亡くなっています。
・2017年に協和商工の社員(当時25歳)が長時間労働による過労からうつ病を発症して自殺してしまった事件。
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【過労死事件の考察】協和商工の事件はどんな勤務状況でどんな会社だったのか
こんにちは、ゴローです。 2019年12月19日に協和商工に勤務していた男性の遺族が、男性の自殺の原因は過労であるとして、会社に約1億1000万円の損害賠償を求めて長崎地裁に提訴したとの報道がありまし ...
JA阿蘇
熊本県阿蘇市の農業協同組合「JA阿蘇」では、工場で仕込みや検査業務を行っていた方が過労死で亡くなっています。
・2019年3月にJA阿蘇に勤める職員(当時29歳)の方が恒常的な長時間労働により過労自殺でなくなった事件。
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【過労死事件の考察】JA阿蘇はどんな会社・労働環境だったのか
こんにちは、ゴローです。 先日、JA阿蘇の職員の方が過労で亡くなった事件が労災認定されたという報道がありました。 参考:JA阿蘇職員の労災認定 菊池労基署、自殺原因「長時間労働」 僕自身も過労死寸前で ...
DMG森精機
愛知県名古屋市に本社がある「DMG森精機」では、奈良県内の工場勤務の技術職の方が過労死で亡くなっています。
・2018年12月にDMG森精機に勤める社員(当時24歳)の方が過労自殺が労災認定された事件。 こんにちは、ゴローです。 DMG森精機の社員の方が過労でなくった事件が労災認定されたという報道がありました。 参考: 男性社員の自殺、労災認定=「疲れたよ」の音声残す―奈良労基署 DMG森精機2年目社 ...
【過労死事件の考察】DMG森精機で起きた事件について
橋本産業
東京都台東区に本社がある「橋本産業株式会社」では、山形営業所に勤務している男性がパワハラでうつ病を発症後、自殺で亡くなっています。
・2018年3月に橋本産業の山形営業所に勤める社員(当時51歳)の方の自殺が労災認定された事件。 こんにちは、長時間労働とパワハラでうつ病となり、労災認定を受けたゴローです。 先日、本社が東京都台東区の「橋本産業」に勤務する男性がパワハラでうつ病を発症して自殺してしまった事件の報道がありました。 ...
【過労死事件の考察】橋本産業はどんな会社でどんな勤務環境だったのか
大阪緑涼高校
学校法人・谷岡学園が運営する大阪緑涼高校の教頭(当時53歳)の男性が、過労で適応障害を発症し、自殺で亡くなっています。
・2018年3月に大阪緑涼高校の教頭が、長時間労働によって適応障害を発症し、勤務先で自殺してしまった事件。
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【過労死事件の考察】大阪緑涼高校の教頭はどんな労働環境だったのか
こんにちは、長時間労働とパワハラでうつ病となり、労災認定を受けたゴローです。 2020年8月28日に私立「大阪緑涼高校」の教頭だった男性が過労で自殺してしまった事件の報道がありました。 僕自身も過労死 ...
過労死の失敗学
僕が実際に過労死寸前までいった体験を分析して、知識化することで、過労死を未然に防ぐことに役立てていただきたいと考えています。
失敗の事象
社員30名程の中小企業で、100時間以上の長時間労働とパワハラによりうつ病を発症して過労死寸前になる。
入社から1年たたずに過労死寸前となり倒れ、労災認定されるが、療養のため2年間通院。
倒れた場所が悪かったり、もう数日出勤していたら、命を落としていたかもしれない。
失敗の経過
入社当初の経過
最初の業務は同僚のサポートであったが、業務量が多く、2人で担当しても毎日終電近くまで残業。
同時期に入社した同僚は1ヶ月ほどで体調を崩して退職してしまったが、自分事に考えていなかった。
入社当初の経過
入社からしばらくして、僕より前に入社した人が過労で休職していると、同僚から聞かされたが、自分は大丈夫だと思っていた。
タイムカード等で労働時間は管理されておらず、毎月の時間外労働がどれくらいあったのか、自分でもわかっていなかった。
社長や上司は、出社している時間以外も、SNSのアプリでコメントの既読を管理して返信を要求していた。
返信がない場合はSNSや朝礼等で吊し上げられるため、恐怖で返信をしていた。
倒れる直前の経過
労働環境が悪かったため、倒れる直前には同僚の大量退職が発生し、業務負荷が上がった。さらに社長や上司からの圧力が強まり、不眠となるが、出社し続けた。
離職率の高いことについて、社長や上司は労働環境に理由があるのではなく、「仕事への思いが足りない」として、退職者は裏切り者と言っていた。
家族から退職したほうがよいと言われ、退職を決意するが、会社から退職拒否されたことで希死念慮が強まる。
数日後、通勤途中に倒れ、強制的に職場を離れた。
失敗の推定原因
失敗の原因は誤判断と組織運営不良と推定。
異常な労働環境であったにもかかわらず、転職や退職しなかったのは、誤判断だった。
過労を原因に退職者や休職者が複数人でていたにも関わらず、社長や上司は精神論に置き換えて環境の改善を行わなかったことは組織運営不良だった。
また、会社は労働時間を管理する義務があるにも関わらず、それを怠ったことも組織運営不良であった。
失敗への対処
倒れる直前には退職を申し出るが、社長が拒否。
失敗の総括
入社直後から異常な労働環境だと感じていたが、過労で倒れることが他人事になっていたのは、大きな失敗であった。
すぐに転職、退職することに抵抗があったのだが、命や健康に変えることはできない。
人の出入りも多く、徐々に自分の業務・心理的負荷もあがっていたが、誰も具体的な労働時間を把握できない仕組みのため、自分自身の状態を客観的に知ることができなかったことも被害を拡大させた要因である。
会社が時間管理をしなくてはならないことを僕自身が知らなかったことも失敗につながった一因。
パワハラと長時間労働による不眠で思考停止した状態になると、自らの行動で改善するのは困難であり、非常に危険な状態である。
そのため、このような状態になる前に、休職、退職、転職の手段を取らなければ、回避できないと思料。
【まとめ】失敗予防の知識
・過労死は業種や年齢などに関係なく、誰にでも起こりうるため、自分は大丈夫という考えは危険
・長時間労働がある会社では、パワハラもあることが多く危険
・不眠で思考停止してしまう前に、会社から離れる行動を起こさないと危険
・離職率が高い会社は、長く在籍すればするほど、個人の業務負担が高くなるため危険
・退職者を悪く言う経営陣や上司がいる職場は危険
・1ヶ月以上、長時間労働が続くような状態はかなり危険
・異常な環境では、自分でも気づかない内に正常な判断を失ってしまうため危険
・経営陣や上司が精神論でミスを防ぐように指示する会社は、問題が起きたときに、個人に責任を押し付けるため危険
・長時間労働で、仕事と家の往復で1日が終わり、休みの日も疲れて寝ているため、社外の人や友人と情報交換する機会が減少してしまうと、思考が閉鎖的になるため危険
・会社は従業員の労働時間等を管理して安全に配慮する義務を負っているが、身を守るためには、自分の状況を客観的に把握できるように備える必要がある
・病気が発症してしまうほど、ダメージを負ってしまうと復帰に時間がかかり、最悪は命に関わることになる
・長時間労働やハラスメントがある会社では、病気になるまでは無理にでも働かせるが、最終的には使い捨てられるため、すぐに転職や退職に向けた行動を起こすべきである
過労死しないための仮想演習のススメ
私の体験から分析した失敗予防の知識や過去の過労死事件の中で、あなたの現状に1つでも思い当たるようなことはありませんでしたか。
1つでもあるようなら、過労死が起きる予兆だと思ってください。
過労死から自分や家族、大切な人を守ることができるのは、あなたが会社を離れることだけです。
会社や上司が変わる可能性より、新しい職場や働き方に向けて行動したほうが肉体的にも精神的にも安全に働くことができる可能性が高くなります。
もちろん、新しい職場でも同じかもしれないという思いや、もっとひどくなるかもしれないという思いもあるかもしれません。
しかし、予兆のある会社で働き続ける限り、確実に死が迫っていると認識すべきです。
現状から離れられないのは、過労やハラスメントで入社する前より自分の考えが閉鎖的になっているからかもしれません。
社外の人と話すだけでも、自分が異常な環境であることがわかるでしょう。
健康であれば、いくらでもリカバリーすることは可能です。
今一度、自分の環境や状態を客観的に見て、新しい未来に向けた明日への一歩を踏み出してください。 ブラック企業を倒れるまで退職できずに、休職してしまったゴローです。 この記事は以下のような悩みがある方に読んでいただきたいおすすめの退職代行サービスの紹介ページです。 ・会社を早くやめたい ・退職を言 ... 続きを見る
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過労死の失敗学の考察
失敗学では、当事者が語るありのままの事実を分析し、知識化した後に第三者に共有することが大切となります。
しかし、故人は語ることができません。
一方で企業側は、裁判に至っても、自社の責任を認めず、失敗について語ることはほとんどありません。
ときに、民事訴訟で再発防止が和解案に盛り込まれることもありますが、判決まで争えば、そのような条件は入りません。
そのため、過労死の失敗が知識化されて第三者に共有されることはなく、個別の事象として、社会では捉えられているのだと思います。
どうすれば、他人事ではなく、現実のものとして、過労死を捉えることができるのでしょうか。
僕は過労死寸前まで経験したが実体験したことを元に知識化することで未然に防ぐための一助になるのではないかと考えてこのページを書きましたが、本来は当事者の加害者側である企業が失敗を分析し、知識化して第三者に共有されなければ、効果は半減しているでしょう。
このような問題に失敗学でアプローチすることに、意味があるのでしょうか。
やっぱり、法律等で罰則・規制強化を行うしかないのでしょうか。
それとも、「電通過労死「問題は、鬼十則じゃない」元役員、実名で”最後の独白”」というインタビュー記事のように、企業の中の人が語ることでしょうか。
自分や大切の人の命を奪ってしまう過労死という問題をみなさんはどう思いますか。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が過労死について考えるきっかけになれば幸いです。